Irish coffee

Sunday, January 15, 2012

ハシズムとファシズム

池田浩士さんの講演より(京都精華大学)

なぜナチスは「エホバの証人」を真っ先に弾圧したのか ナチズムは、600万人のユダヤ人、50万人以上のロマの人たち、多くの同性愛者、障害者、アルコール中毒者などを殺しました。しかし真っ先に弾圧したのは「エホバの証人」信者でした。彼らの戒律のうち、国家儀礼の拒否、つまり国旗への経緯の表明や国家を歌うことを拒否することを一番の脅威だと感じたからでした。つまり、国家儀礼を拒否する国民の排除が必要だったのです。 当時ドイツには、6034人の信者がいましたが、そのうち5911人が逮捕され、2000人以上が虐殺されました。これが最初の大量虐殺でした。 ナチスは、チューリンゲン州ではじめて大臣を出しました。そのとき、ヴィルヘルム・フリックが法務大臣兼教育大臣になり、教育改革をすすめるとともに、黒人文化禁止条例を作ったのです。ドイツ人の民族性を守るためという理由からです。ジャズ、抽象画、アングラ劇などを禁止しました。ナチスによる独裁はここから準備されていったのです。

1933年にヒトラー内閣が成立した時、首相のヒトラーを除いて、ナチスは二つの大臣ポストしか取れませんでした。そのうちの一つが治安・警察・思想統制を管轄する内務大臣で、法令改定を含めて思想統制を行うことの重要性をナチスは認識していたのです。

ナチスの時代を「良かった」という人々

ドイツでは、あのひどい犯罪が明らかになっていた戦後においても「あの時代は良かった」という感想を抱く人々が多かったという事実があります。そのことを記した公文書は隠されていましたが、情報公開で明らかになりました。 その理由の一つは「失業がなくなり生活が安定した」ということでした。

ナチス政権掌握直前の失業率は44・9%で、それ以外にパート労働が約30%いました。それを二年後には一桁に、1938年には1%未満にしたのです。どのようにして失業者を減らしたかというと、失業者を正採用労働者の(賃金の)5分の1から7分の1の「チップ」によるボランティア労働に借り出すことによってでした。しかし、余剰人口がなければ戦争はできません。ですから、失業が解消されると労働力が不足し、ユダヤ人の強制労働や東欧から連行してきた人々の強制労働が必要とされたのです。

「良かった」という理由の2つ目は「社会的差別がなくなって平等が実現された」ことでした。当時のドイツは身分社会でしたので、ブルーカラーとホワイトカラーの身分さが大きく、飲み屋でも席は別でした。ナチスは、たとえばメーデーで花トラックを走らせ、その上でブルーカラーとホワイトカラーの双方に一緒にビールを飲ませるなど、平等な社会を演出し、ブルーカラーの支持を得たのです。

他には「ドイツ人であることの誇りが回復された」という理由もありました。第一次大戦の敗戦後、ドイツ人であることが恥ずかしいという雰囲気がヨーロッパで作られていきます。これは戦勝国のフランス、イギリスの責任でしたが、ナチスが不平等条約を次々と破棄し、軍備拡張していくことでドイツ人の愛国心を鼓舞していったのです。 現在と共通する「閉塞感」と「被害者感情」 あの時代の閉塞感と被害者感情は今日と共通しています。

ナチスは「ユダヤ人から仕事を取り戻して失業をなくす」と言っていましたが、当時のユダヤ人はドイツの人口の0.8%、52万人しかいなかったのです。これは今日の在特会の動きを思い起こさせる事実です。現実は在特会の言うような状況ではないのに、在特会の主張に賛同する人が出てくる、橋下の言うことに喝采を送る現状があります。自分たちの無念な思いを独裁的な政治家によって解消してもらいたいと思う構造は同じなのです。

国民が圧倒的にナチスを支持した

ナチスは国民投票を頻繁に実施しました。その国民投票で、国民は圧倒的にヒトラーを支持しました。たとえば、オーストリア併合のあとの国民投票では、ドイツでも、オーストリアでも、99%以上の指示を得たのです。しかも投票率は非常に高く、ときには90%を越えることもあったのです。 しかし、「ヒトラーと一握りの狂気集団が国民を弾圧して、ドイツをあのような犯罪に引き込んだ」という嘘の歴史像が戦後作られました。そして国民の責任を免罪することになるのです。

実はハシズムを考える時にも、国民、地方住民の責任を考えることが重要です。強い政治家、独裁者を演じたがる政治家になぜ自分たちは歓呼と支持を送るのか。その政治家がだれを仮想敵として、なぜ私たちにそれを憎悪させようとするのか、マスメディアを道具として活用するその政治家の意図を見抜くためには、私たちは「仮想敵」とされる人々の顔や姿を身近な隣人として思い描く想像力をしっかりと持たなければならないのです。

ハシズムと闘うために ナチスはマスメディアをたくみに利用したことは良く知られています。政権獲得よりずっと以前から、各種マスメディアにナチ党員を意識的に送り込んでいました。しかし、現在、橋下が送り込んだわけではないのに、マスコミの中に橋下を持ち上げ、支える人たちが多くいます。だから、ナチスドイツの現実よりも私たちの現実の方がより悲惨なのではないでしょうか。選挙の結果はともかく、こういうことをまかり通らせてはいけないと思います。 ヒトラーが地方政治から政権を取っていく過程を見ると、それと同じようなことがいま起こりつつあるのを座視することはできません。

「ハシズム」に期待する人々に何を伝え、その人々の心をどう動かすことができるのか、私たちの地道な活動がいま問われているのです。

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